嫌われ者に恋をしました

 隼人は立ち上がるとリビングを出て行った。隼人がいなくなったのを見届けて、雪菜はそれまで頬に付けていた氷枕を離してじっと見た。

 叩かれたのは10年ぶりかな……。さっきは必死で何が何だかわからなかった。叩かれても気にしないで逃げてしまった。

 雪菜は目を閉じて、もう一度氷枕を頬に押し付けた。それはヒンヤリとても冷たくて、隼人の優しさが温かく心に伝わってくるような気がして、鼻の奥がツンと痛くなった。

 しばらくそうやって隼人の優しさを心に刻みつけるように、じっと頬を押さえていた。

 ガチャッと扉の開く音と一緒に、頭をタオルで拭きながら隼人が戻ってきた。振り返って隼人を見た雪菜は、ハッとして目が離せなくなった。……また雰囲気が違う。

 雪菜がじーっと見ていたから、隼人は首を傾げた。

「どうしたの?」

「……眼鏡?かけてないんですね?」

「ああ、また雰囲気が違った?もっといい男になった?」

 そんなことを言って爽やかな好青年が笑ったから、雪菜はどぎまぎした。

「ええ?えっと、……はい」

「なんか無理に言わせた感じだな」

「い、いえ、本当なのです」

「いや、いいよ。冗談だから。なんにしても、眼鏡がないとよく見えないから不便だし」

 そう言って隼人はTシャツに差してあった眼鏡を取ってかけた。眼鏡をかけるとさっきの隼人にスッと戻ってしまい、雪菜はもう少し見ていたかったような残念な気持ちになった。
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