嫌われ者に恋をしました

 人の家のお風呂に入るなんて初めて。ミノリちゃんのアパートに遊びに行ったことはあるけど、お風呂になんて入らなかったし。

 逃げる時に走って汗だくになったから、本当はすごくシャワーを浴びたかった。貸してもらえて良かった。ボディーソープ、借りてもいいのかな。シャンプー借りて、髪洗っちゃってもいいのかな。

 結局、ボディーソープもシャンプーも使ってしまった。洗った後になって気がついたが、考えてみたらドライヤーも貸してもらわないといけなくなってしまった。……勝手に開けて探すより、聞いた方がいいのかな。

 着替えてリビングの扉を開け、隙間から少し顔を出した。

「あの……」

「何?」

「ドライヤーお借りしてもいいですか?」

「ああ、なんだ。いいよ」

 隼人は洗面台の引き出しを開けるとドライヤーを取りだして、雪菜に手渡した。

「髪が濡れてる雪菜もかわいいね」

「ええ?」

「今日は初めて見る雪菜ばっかりで、ホント嬉しいよ」

 優しい目で見下ろされてドキドキする。それは私もそうです、と言いたいけど勇気がなくて言えない。でも伝えたい。

「……それはっ、そうです」

「?」

 焦って言ったら、言葉が抜けておかしな会話になってしまった。恥ずかしさで一気に顔が赤くなる。

「ああ!いえっ、えっと、私も同じですと言いたかったのです」

「ははっ、そんな風に焦る雪菜も初めて見る雪菜だね。……本当にかわいい」

 そう言って隼人がそっと頬に触れたから、息が止まって呼吸の仕方がわからなくなった。
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