嫌われ者に恋をしました
確かに古い車。車内は薄汚れていて「車内禁煙」と貼られたラベルも茶色く変色している。
「ねえねえ、タバコ吸ってもいい?」
柴崎課長が聞いてきた。雪菜は嫌だと思ったものの、何も言えず黙っていると、隼人が答えた。
「ダメですよ。この車、禁煙ですから」
「堅いこと言うなよ」
「俺だって我慢してるんですよ。煙草臭いって柴崎さんの部下から文句言われるの、俺なんですから、勘弁してください」
「仕方ないなー。じゃあ後にするよ」
柴崎課長はドサッとシートに深く腰掛け、煙草の箱を胸ポケットにしまった。
雪菜は、隼人が煙草を吸うのは知っていた。いつも煙草の臭いがしていたから。でも、吸っている所は見たことがなかったから、今の会話を聞いて、本当に吸うんだと確信した。
雪菜は煙草が苦手だ。以前は震え上がるほど苦手だったが、最近は少しずつ慣れてきた。働いているとどうしても煙草を吸う人と一緒になる。それに、瀬川も煙草を吸っていた。仕方なく我慢しているうちに、だんだん慣れてきたのかもしれない。