嫌われ者に恋をしました

「次『課長』って言ったら鯖折りするよ?」

「何ですか?サバオリって」

「ベアハッグとも言う」

 そう言うと、隼人は繋いだ手を離して腰から差し込み、雪菜を思いっきり腰から力強く抱き寄せた。

「!」

 突然の動きに雪菜は完全に無抵抗なまま抱き締められて、一瞬息が止まった。

「鯖折り」

「……こ、これが?」

 これは、ただ抱き締めているだけでは?そう思いつつ、密着した肌の近さにドキドキしていた。もしかしたら、やっぱりこのまま……?

「寝てたら鯖折りにならないか……。プロレス技ね」

「え?は、はあ」

 隼人が無邪気にプロレス技なんて言い出すとは思わなかったから、雪菜はちょっと拍子抜けした。

「プロレス好きなんですか?」

「いや、子どもの頃、弟とよくやってたから」

「弟さんとこんなことを?」

「弟に鯖折りなんかしないよっ」

「そ、そうですか」

 ふと胸に顔を寄せたら、また、あのいい香りがして目を閉じた。

「いい匂いがします」

 思ったことをそのまま言ってしまって、雪菜は少し固まった。

「ホント?良かった。オッサン臭いなんて言われなくて」

 そういえば今はあまり煙草の臭いがしない。やめてからまだそんなに時間は経っていないはずなのに。

「そんなわけ、ありません……」

 温かくて、包まれていて、いい香りがして。私のことしか頭にない、なんて言ってもらって……。幸せすぎて夢みたい。そう思ったら急に力が抜けて、雪菜はあっという間に眠りに落ちてしまった。
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