嫌われ者に恋をしました

 それにしても、この家に来て雪菜が美生のことを考えるなんて思わなかった。

 俺が美生を忘れられなかったのはずっと昔の一時だけだった。確かに、もう女なんてこりごりだと思っていたが。でも、今はこんなに雪菜に夢中になってしまった。

 二人ともお互いの背後に過去を重ねて見てしまっていたんだろう。でも、もうそんなことは気にしなくていいとわかった。

 雪菜が「私を見てほしい」と思っていたなんて、「課長のことしか見えません」だなんて、たまらない気持ちになった。

 どうしても『課長』から抜け出せない雪菜。きっと、あだ名みたいな意味合いで使っているんだろう。でも、どうしても名前で呼んでほしい。

 雪菜は瀬川のことを瀬川さんと苗字で呼んでいた。瀬川にはしなかったことを俺にはしてほしい。くだらないことだとわかっているが、少しでも瀬川より上でありたい。……結局俺はいまだに瀬川を気にしているのかもしれない。

 雪菜が瀬川に未練がないというのは本当だろう。だからもうこれ以上、雪菜に瀬川のことを聞くのはやめよう。雪菜は今こうして俺の所にいるんだから。

 でもまだ、俺に対する怖れがあるように感じる。「シャワー浴びてくれば」って言っただけで、ビクッとして固まっていた。まだそこまで心を許してくれていないんだろうか。
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