嫌われ者に恋をしました
それに今日一緒に過ごしてわかったが、雪菜はかなりの世間知らずなのかもしれない。
俺の家ごときに「すごく大きな家」とビビりまくったりして。確かにここは美生の好みだから、共有部分は若干豪華だが、大きさや造りは普通のファミリーサイズのマンションに過ぎない。それなのに、まるでこういう家を見たことがないような反応だった。
ドライブでも俺の車をもの珍しそうに「大きい」と言い、夜景には目を輝かせて、飛行機を「初めて見る」と言って窓にへばりつく子どもみたいに見ていた。
こんなに世間知らずなのは、今まで人と関わらないようにしていたからだろうか。会社では無表情にテキパキと仕事をこなしていたから、こんな側面は想像できなかった。
もっといろんな所に連れて行って、いろんなものを見せてあげたい。いろんなことを楽しませてあげたい。
明日、鍵を替えたら雪菜は帰ってしまう。このままここにいてほしい。
明日、鍵屋も夏休みならいいのに。このまましばらく家の鍵を替えることができなくて、このまま俺のそばにいればいい。このままずっとそばにいて、ずっと一緒にいればいい。
もうこのまま手放したくない。
隼人は雪菜を起こさないようそっと腕の位置を変えて抱き締め直すと、静かに目を閉じた。