嫌われ者に恋をしました

「じゃあ、俺は帰るよ」

 雪菜を抱き締めて上を見上げたまま、全く帰る気配もなく隼人は言葉だけでそう言った。全く動かない隼人を雪菜は首を傾げて見上げた。

「本当は帰りたくないけど、でも帰るよ」

 そう言って隼人は雪菜を離した。

「休みの間なら瀬川がここに来ることはないと思うけど、万が一何かあったらすぐに知らせろよ」

「はい」

「じゃあ」

 そう言って隼人がドアノブに手をかけた瞬間、雪菜がバッと抱きついてきた。雪菜から抱きついてくるなんて初めてで、驚いて目を見張った。つい反射的に抱き締めてしまった。

「どうしたの?寂しくなった?」

 雪菜は額を胸にこすり付けるようにうなずいた。

「は、隼人さんのことが好きです」

 どうしてこのタイミングでそんなこと言うんだろう。

「どうしたの?急に」

「まだ言えていなかったので……」

「昨日も今日も似たような言葉は聞いたよ」

「そ、それはそうですが、どうしてもちゃんと言いたくて」

 さっき疑ったりしたからだろうか。それとも「好き」という言葉を言いたくて、言えずにいたということだろうか。俺が帰るギリギリまで言えなくて今になった、ということだろうか。そんなかわいいことを……。胸の奥深くをグッと掴まれた。

「俺も雪菜が好きだよ」

 腕に力を入れて強く抱き締めた。
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