嫌われ者に恋をしました
水族館の中はとにかく混んでいた。人もいっぱい、子どももいっぱい。恋人同士というより家族連れが多い印象だった。ガヤガヤしていて大きな声で話さないと聞こえない。
丸や四角にくり抜かれた壁の中に水槽があって、何か生き物がいるみたいなのに、人の山で全く見えない。
「すごく混んでますね」
「夏休みだからね」
水槽に近づくにつれて人が満員電車のようにぎゅうぎゅうと増えてきて、人に押されて隼人とぴったり密着してしまい、雪菜は腕に感じる隼人の体温にドキドキした。
押し流されてたどり着いたのは、青く涼しげな水槽だった。くらげが気持ち良さそうにふわふわと泳いでいる。透明で涼しげなくらげ。大きいくらげ、小さいくらげ。
でも、じっと観察する間もなくすぐに流されて、次の水槽に押し出された。
次の水槽は暗くヒンヤリしていて、水底で蟹が動かずにじっとしている。こっちを見てる?でも、蟹とにらみ合う間もなく、またあっという間に次の水槽へと押し出されてしまった。
次々と人の波に流されて、じっくり見ることができないまま、小さな水槽のブースはあっという間に終わってしまった。
「次は下に降りるみたいだね」
雪菜は小さな水槽たちに未練を残したまま、隼人に手を引かれて下へ降りた。
下に降りた途端、青い光が飛び込んできて雪菜は目を見張った。そこは壁一面が水槽になった広い空間になっていた。
大きなマグロや小さな魚たちの群れが悠々と泳いでいる。水面から差してくる光が不規則に床で揺らめいていて、とても綺麗だった。