嫌われ者に恋をしました
「嫌われなくて良かったです」
「そんなわけないよ。むしろもっと好きになった。俺、水槽なんか全然見てなかったし」
「え?」
「魚を見てる雪菜のこと、ずっと見てたよ」
「え!」
そんなこと、こんな近くで言われたらドキドキしてしまう。
「蟹とにらみ合いしてる雪菜とか」
「ええっ!」
それは、なんかちょっと恥ずかしい。
「でも、あんまりゆっくり見れなかったね。今日は混んでるから仕方ないけど」
「……はい。でも、すごく楽しいです」
「うん、それなら良かった」
こんなに幸せでいいんだろうか。こんなに優しい人に手を握られて隣に座っていられるなんて、幸せすぎて怖い。
会社の課長と、今の隼人さん、全然違う人みたい。課長の時は冷たくて怖い感じなのに、今は笑っていて優しくて温かい。営業所に行って悪者にされても嫌われても冷ややかに対応している課長の姿なんて、今の隼人さんから想像できない。
「課長は……っ」
「こんな大勢の人がいる所でしてほしいの?」
「い、いえ。うっかりミスです、隼人さん」
「うっかりミス?ふーん。俺が課長だったら許さないけど、今は許してあげようかな」
隼人はそう言うと、鯖折りの代わりと言うように手をギュッと握り締め直した。