嫌われ者に恋をしました
雪菜は足元で揺れる光を見つめながら口を開いた。
「隼人さん、監査課長なんてお仕事、嫌じゃないんですか?」
「どうして?」
「だって、営業所に行っても絶対に歓迎されないし」
「そりゃそうだね」
「いつもきちんとお仕事しているのに、嫌われて悪者扱いされちゃうし。どうして平気なのかなと思って」
「嫌われ者が恋人じゃ嫌?」
「そんなことありません、心配なのです」
また変な言い方になってしまった。ちょっと癖になりつつあるかも。
雪菜が見上げると、隼人は水槽をぼんやりと眺めていた。
「まあ、仕事だからね。仕事上の役割で嫌われようと悪者にされようと別にどうってことないよ。雪菜に嫌われたら、耐えられないけどね」
そう言うと隼人は雪菜を見て微笑んだ。
「雪菜に嫌われたら耐えられなくて死んじゃうよ」
「そ、そんなこと言わないでください」
「嫌いになるの?」
「なりませんっ!でも死んじゃダメです」
隼人はフッと笑った後、急に真面目な顔をして雪菜を覗き込んだ。
「わかったよ、死なない。でも、雪菜に嫌われたら、雪菜を失ったら、体は生きていても心は死んでしまうよ、きっと」
「嫌いになんか、なりません……」
「じゃあ、俺のそばにいて」
涙が出そうだった。私だって隼人さんを失ったら心は死んでしまうかもしれない。
こんなに好きになってしまうなんて。隼人さんも同じように想ってくれているなんて。
キュンとし過ぎて、指先まで痺れた。キュンとし過ぎると指先まで痺れるってことを初めて知った。