嫌われ者に恋をしました
雪菜は床をじっと見ながら言った。
「あの時泣いていたのは、瀬川さんに会えないことが悲しかったからじゃないんです。一人きりにされることが怖かったからなんです。でもあの時やっと一人になる覚悟ができて……。だから、あの後すぐに別れたんです」
「……」
隼人がじっと雪菜を見ていることには気がついていたが、雪菜は隼人の方を見ることができないまま、うつむいて続けた。
「私、こんなに隼人さんのことが好きなのに。こんなに隼人さんのことばかり考えてるのに、うまく伝えられない自分が嫌になります」
「……いや、俺の器が狭いんだよ。ごめん」
隼人は雪菜の手を力強く握った。
「今ここで抱き締めたいな」
「そ、それは」
「できないから帰ったらにする」
「……」
帰ったら抱き締めてもらえる、そう思ったらまた胸がキュウッとした。課長と呼んだら鯖折り、なんて言われたけれど、雪菜は隼人に抱き締めてもらえるなら本当は何度でも課長と呼びたかった。
「で、敬語はやめてくれるの?」
「ええっ!ど、努力します」
「やめてないじゃない」
「私、努力、する」
「それはタメ口じゃなくて、片言だよ」
「えっと、……がんばる、ね」
「うん、その調子」
隼人は微笑んで雪菜の頭をそっと撫でた。