嫌われ者に恋をしました
雪菜は隼人の感触を肩や背中に感じてドキドキしながらバッグから手鏡を取り出すと、太陽の光を岩に反射させてみた。
すると、そばにいたペンギンがやっぱり同じように光を追いかけて顔を向けた。光を動かすとその動きに合わせてクイックイッと機敏に顔を向ける。その動きがとてもかわいくて、雪菜はふふっと笑った。
「かわいいですね」
雪菜がそう言うと、隼人は腕に少し力を入れた。
「ああっ、敬語だから……」
「それもあるけど、そうやって笑った雪菜を見れたから。嬉しいんだ」
隼人は雪菜の頭に顎を乗せた。頭がくすぐったくて、いつもと違う感覚にゾクッとした。
「ねえねえ、イチャついてんのー?」
急にさっきの兄弟の一人が大声で話しかけてきた。
「だから何?」
隼人の冷ややかな声が頭上から聞こえた。この声は、課長の時の声。きっと目つきも冷たいに違いない。
「べっつにー」
兄弟は登っていた柵から「とうっ!」と言って続けざまに飛び降りると、バタバタと走って行った。
「やっぱりこれは目立つのでは……」
「嫌なの?」
「い、嫌って言うか、その、こんな人前ではちょっと……」
「人前じゃなかったらいいんだ?」
「ええっと、……それは」
「じゃあ、これも帰ったらにする」
そう言うと隼人は仕方ないな、という顔をして雪菜を離し、手を繋いだ。