嫌われ者に恋をしました

 雪菜は隼人の胸に頬を寄せてそっと言った。

「……課長」

「?」

 隼人が何も反応しないから、今度は見上げて首を傾げて言った。

「課長?」

 隼人は少し目を大きくして雪菜をじっと見つめた。

「もしかして、わざと言ってる?」

 そう言われたら急に自分のやっていることが恥ずかしくなって、耳が熱くなって雪菜は顔を隼人の胸に隠した。その途端、ぎゅうっと強く抱き締められた。

「……許せないな」

 隼人はしばらく抱き締めた後、腕の力を緩めると、胸に顔を押しあてたままの雪菜の髪に耳に唇を押し付けた。それはとてもくすぐったくてゾクッとした。

「もう、鯖折りじゃ済まないよ」

 そう言われたら自分でこんな事態を引き起こしておきながら、雪菜はやっぱり怖くなった。

「……何が怖いの?」

 雪菜が少し強張ったのを感じて、隼人は静かに聞いた。

 雪菜は首を振った。何が怖いのか、自分の中でも答えが出なかった。

「そう……」

 隼人はそう言うともう一度強く抱き締めた。抱き締められたら心地良くて安心した。怖いのに安心するなんて、矛盾している。

 もう、自分で自分がよくわからなかった。
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