嫌われ者に恋をしました

 隼人が酒を飲む気配がなかったから、雪菜は少し安堵していた。飲むことが嫌なわけではなかったが、瀬川にはいつも酌をさせられていたから、それは少し嫌だった。飲む時はこの人もやっぱり注いでほしいんだろうか。

 それにしても、エプロンを持ってきて良かった。ちょっとした備えとして持ってきたが、まさか一緒にお好み焼きを作ることになるとは思わなかった。

 一緒に料理を作るのは、すごく楽しかった。お好み焼きを作る隼人の姿は、今まで一度も見たことがない姿だった。手慣れた様子なのも意外だったが、料理をしている隼人には不思議な男の魅力があって、雪菜は秘かにじっと見つめてしまった。

 片付けをした後、二人でソファに座って喋った。昨日の夜も電話で喋って、今日も一日ずっと一緒にいて喋っていたのに、すごく楽しくて全然話し足りなくて、本当に不思議だった。まだまだもっと喋っていられるような気がした。

「もう時間も時間だから、お風呂に入っておいで」

 そう言われて、ドキッとした。もうこんな時間……。もっとお話ししていたい。でも、そう言うわけにもいかない、か。

 雪菜は黙ってうなずいた。

 この間も借りたお風呂だけれど、やっぱり自分の家じゃないと緊張する。でも、緊張するのはそれだけが理由じゃない。

 シャワーを浴びながら考えた。もうさすがに今日は断れない。私が怖がって固まると隼人さんは手を出さない。でも、そんなことを繰り返してるわけにはいかないし。

 怖いと思うのはなぜだろう。痛いことをされるのが嫌だから?優しい王子様じゃなくなることが嫌だから?どっちも、なのかな……。

 結局、気持ちの整理がつかないまま、髪を乾かしてリビングに戻った。
< 209 / 409 >

この作品をシェア

pagetop