嫌われ者に恋をしました
目の前で眼鏡をかけていない隼人さんが真剣なまなざしをしている。そんなことをぼーっと考えながら、雪菜がその瞳に吸い込まれて何も言えずにいると、隼人は口を開いた。
「教えてほしいんだ」
「……何を、ですか」
「何がそんなに怖いのかと思って」
「えっ?」
「俺が怖いの?」
「ち、違います」
「じゃあ、何が怖いんだ?」
「……」
何と言ったらいいのかわからなくて、雪菜は黙ってうつむいた。
「あいつに何か嫌なこと、された?」
それは瀬川さんのことだろうか。
「嫌な、こと……?」
よくわからないまま雪菜はつぶやいた。
「何かされた?」
「よく、わかりません」
痛いことを嫌と言っていいのかわからなかった。変なことを言ったら隼人に嫌われてしまいそうな気がして、雪菜はどうしても言う勇気が出なかった。
「わからないの?それとも言いたくないの?」
雪菜の肩を握る手に力が入ったのを感じた。
「俺は雪菜を怖がらせるようなことはしたくないんだよ。だから、教えてほしいんだ」
言って嫌われたら耐えられない。でも、もう言わないわけにはいかなそう。雪菜は祈るように手のひらを口の前で合わせて、消え入るような小さな声で言った。
「……痛いことは、嫌なのです」
「え?」
隼人は眉間に皺を寄せて首を傾げた。やっぱりおかしなことを言ってしまったんだろうか。言わなければよかった。言ったそばから後悔して、泣きそうになった。