嫌われ者に恋をしました
車に向かおうとした時、隼人は喫煙所にいる柴崎に呼び止められ、手招きされた。
「あの子、どうなの?」
「あの子って、小泉のことですか?何か問題がありましたか?」
柴崎は胸ポケットから煙草を取り出してくわえると火をつけた。隼人もつられるように煙草を取り出した。
「いくらなんでも、あそこまで無愛想だと怖いじゃない、先方もさ」
「そうでしょうか?」
「まあ、監査だから別に無表情でもいいのかもしれないけどね」
柴崎は首をすくめた。隼人は煙草に火をつけて、立ち上る白い煙を見ながら、雪菜の様子を思い返していた。
今日観察して分かったが、思っていた以上に雪菜の感情は瞳に表れていた。伝票を見終えた時も嬉しそうだったし、隼人が台帳から漏れていそうな物品を当ててみせたら、感心した瞳を向けてきた。表に出ないだけで、本当は感情の豊かな子なのかもしれない。
「愛想のいい子は、この仕事はやりたがりませんよ」
「そりゃそうだ」
煙を吐きながら柴崎は笑った。
しばらく無駄話をしてから車に戻ると、待っていた雪菜と永井に柴崎が「これからどお?」と猪口を飲む手振りをした。
「行きまーす」
永井は当たり前のように返事をした。
「俺は車を戻さないといけないんで、社に戻りますよ」
「私も仕事があるので会社に戻ります」
柴崎は、まあそうだろうと思ったという表情をして「じゃあ駅まで乗せてって」と言った。
わいわいとうるさい柴崎と永井を途中の駅で降ろし、隼人たちは会社へ戻った。