嫌われ者に恋をしました
そんなことがあるんだろうか。小さな子どもに煙草の火を押し付けるなんて正気の沙汰じゃない。考えただけでゾッと寒気がする。それに痕は一つや二つじゃない。雪菜はそんなことを何度もやられてたっていうんだろうか……。
「なんで、そんなことを……?」
「……イライラする、と言われました。きっと私がテレビなんか見てたから……」
子どもならテレビくらい普通見るだろう。
「そんなの理由にならないよ。そう言えば、お母さんの彼氏なんだろ?お母さんに言わなかったのかよ」
「お母さんには……、『お前が悪い』って言われて叩かれました」
「はあ!?なんだよ、それっ……」
でも、そう言えば以前、雪菜が人と関わらないのは母親の言葉が原因だと聞いた。聞いた時は理解できないと思いつつ、深くは考えなかったが、もしかしたら、雪菜はあまり愛されずに育ったのかもしれない。
「お母さんには『こんな汚い傷、私がやったと思われたら困る』って言われて、修学旅行とか一度も行かせてもらえませんでした」
寂しげにうっすら微笑んで話す雪菜をじっと見て、考えなしに力いっぱい抱き締めた。
煙草の火を押し付けられる?悪くもないのに母親に叩かれる?修学旅行に行かせてもらえない?そんなの想像したこともない世界だ。
そんなの辛かったんじゃないのか?苦しかったんじゃないのか?
だから!だから、雪菜は煙草が嫌いなのか!あんな風に顔色が悪くなったりして。
だから、俺に煙草をやめてほしかったんだ。そんなのもう絶対に吸えない。もう吸うつもりはなかったが、本当に絶対に吸わない。