嫌われ者に恋をしました
(3)初めての食事
会社に戻ると、もう経理課は誰も残っていなかった。雪菜が資料とバッグを机に置くと隼人が口を開いた。
「これから飯でも行かない?」
雪菜は耳を疑い、動揺した。私がさっき柴崎課長の誘いを断ったの、見ていなかったんだろうか。どういうつもりだろう。
でも、隼人の表情は変わらなくて、何を考えているのかわからない。
「嫌ならいいんだけど」
「別に、嫌というわけでは……」
「じゃあ、どうする?行く?」
「え、……はい。じゃあ、……行きます」
なんとなく断れなくて行くことにしてしまった。私なんかと一緒に食事に行っても、話すことなんてないと思うけど。
男の人と一緒に食事に行くなんて、どうしよう。なんだか状況が掴めなくてドキドキして、エレベータに乗っている間も、外を歩く間も、ずっと黙って隼人の後ろをついて歩いた。
隼人は会社からそれほど離れていない、こじんまりとした静かな雰囲気の店の前に立った。
「ここでいい?」
「はい」
扉についた鈴をカランコロンと鳴らして店の中に入ると、表からは想像もつかないくらい店内は活気があり、人の声が飛び交ってガヤガヤとしていた。少し大きな声で喋らないと聞こえないくらいだった。