嫌われ者に恋をしました
「私が物心ついた頃には、お母さんは次々といろんな方とお付き合いをしていたと思います。
でも、あまり優しい人はいなかったような気がします。……あの煙草の人だって……。それに、いつも半年も続きませんでした」
「怖かっただろうね」
「え?」
「そんな男が家にいて、怖かっただろ?」
「それは……、はい……。でも!いつも捕まらないように気配を消して隠れていましたから!大丈夫なのです!」
雪菜が少し元気に言うと、隼人は寂しげに微笑んで少し覗き込んだ。
「お母さんは助けてくれなかったんだよね?」
「お母さんは彼氏に嫌われたくなくて、いつも彼氏の言いなりでしたから。それに、なにより私のことが嫌いでした」
「ずいぶんハッキリと言い切るね?」
「『お前なんか産まなきゃよかった』っていうのがお母さんの口癖でしたから」
「そんなことを!?……なんなんだよ、雪菜のお母さんって」
「私がいなければ、彼氏と一緒に幸せになれたでしょうから……。やっぱり邪魔だったと思います」
「そんな……」
「それに、なんて言ったらいいのか……、お母さんはちょっと混乱した人でした。ごくたまにご機嫌なこともありましたけど、でもだいたいいつもイライラしていて……」
「イライラ、ね」
「はい。私を見るとすぐイライラしていきなり叩いてきたり、ことある毎に『お前が私の人生台無しにした!』って言っていました。
『お前が関わるとロクなことがないんだから、人に関わって迷惑かけるな』って」
「雪菜は今でもお母さんのその言葉を信じているの?」
「そう、ですね」
「それは違うよ、雪菜。人と関わっても迷惑なんてことはないよ。俺は雪菜が関わってくれて最高に幸せだし」
少し力が入った腕の暖かさと隼人のその言葉が胸の奥に響いて、涙が湧いた。雪菜は懸命にパシパシと瞬きをしてごまかした。