嫌われ者に恋をしました
奥の席がちょうど今あいたところで、店員さんがテーブルを拭いて案内してくれた。
隼人は雪菜にメニュー表を渡して「どうぞ」と言った。
「今日はおごるよ」
「え?……あ、ありがとうございます」
いいんだろうか。こういうことには慣れていない。雪菜はため息をついた。
メニューを見ると、店はイタリアンの店だった。雪菜は選ぶ余裕もなくて、パッと見て一番軽そうなメニューを選んだ。
「松田課長は、こちらにはよく来られるんですか?」
「いや、初めて」
雪菜は「そうですか」とうなずいた。それ以上話すこともなく、会話が続かない。戸惑っていたら、今日行った営業所の所長が言っていたことに疑問を感じたことを思い出した。
「あの……、今日の所長さんは、機材が倉庫にあるっておっしゃってましたけど……」
「なかったよね」
「はい」
「まあ、きっとあるんだよ」
「え?でも……」
「いいんだ。今年中にうまくやってくれれば。俺たちは内部監査だからね。別にミスを暴いて表にさらすのが目的じゃない。おかしな部分が世間にさらされる前に、きちんと処理してもらうために行ってるんだ」
それなら、そう説明すればいいのに。その方がきっと向こうの態度も和らぐと思うけど。
「なぜ、そのように説明されないんですか?」
「そんなこと言ったら甘えが出るだろ。内部監査とはいえ、誰かに見られるって意識をさせて引き締めるのも目的の一つだから」
「……そうですか」