嫌われ者に恋をしました
「……もしかしたら、そう思っていた方が楽なのかもしれません」
「楽?」
「はい。感情を表に出さないのも同じで……。その方が楽だからなんだと思います」
「そうなんだ?」
「子どもの頃、泣いても笑ってもイライラすると言われてお母さんに叩かれたので、感情を表に出したらいけないって、いつも心のどこかで思っていました。
でも、人と関わらなければ、感情を出さなければ、波風が立たなくて静かに過ごせることに気がついたんだと思います。
誰にも心を開かず、誰にも関わらず、一人で静かにしていると傷つかないし楽だから……。そうやって人と関わらないことに、私は甘えているのかもしれません」
「甘えている?雪菜は自分に厳しいんだな」
「そんなことはありません。私は結局、お母さんのせいにして、自分に甘えているんです」
「自分に甘えて傷つかないようにしている?」
「……そうですね」
「じゃあさ、自分に甘えないで、俺に甘えてみたら?」
「え?」
「人と関わることも感情を表に出すことも、怖いことじゃないよ。そりゃ傷つくことはあるかもしれないけど、人ってそういうものだと思うし、その時は俺が一緒にいるよ。
だから、閉じこもっていないで自分の中から出ておいで。出てきて俺に甘えて、いろんな雪菜を見せてよ。俺が雪菜を守るから」
守るから、なんて台詞……ドキドキして胸がざわざわした。
「今までいろいろあったから、雪菜は臆病なのかもしれないね。雪菜が幸せだと不安になってしまうのは、急に不幸に襲われるより、前もって予想しておいた方がダメージを抑えられるからかもしれないよ?
でも、俺と一緒にいて幸せなら、素直にそう感じてほしいんだ。俺との幸せは雪菜を裏切らないって俺、証明してみせるから。だから、俺を信じて俺に甘えてほしい」
この人、本当に王子様なのかも……。雪菜は目を丸くしてまじまじと隼人を見つめた。