嫌われ者に恋をしました
雪菜はうなずいた。
「出て行かないでほしいって、突然言い出したんです。私を一人にしないでって……。でも、私はもう出て行くつもりでいたので、このまま家にいるなんてできないって言ったら、じゃあ今まで育ててやった金返せって言い出して」
「は?なにそれ?」
隼人は眉間にしわを寄せて、よくわからないという表情をした。
「本気だったのかはわかりません。あの時お母さん、酔ってたし……。売り言葉に買い言葉みたいな感じでしょうか。でも、私もどうしても引けなくて、出て行くしお金も返さないって言い合いになってしまって……」
「それは間違ってないんじゃない?自分の力で大学に行くわけだし、育てるのは親の義務なんだから、金返せなんて理不尽だし」
「そう、ですよね……。そうなんですが……。あの時、お母さんすごく感情的になっていて、私のことを思いっきり引っ叩いて、飛び出して行ったんです……」
「うん」
雪菜が言葉に詰まったから、言葉を促すように隼人はうなずいた。
「……でも、出て行ったすぐ後に、……車に、轢かれて……」
思い出した途端、大粒の涙がぽろぽろと落ちてきた。
「雪菜……」
隼人がぎゅうっと強く抱き締めてきた。
「私が言い合いなんてしたから……、私のっ、……私のせいで」
「違う!違うよ、雪菜。雪菜のせいじゃない」
抱き締められて隼人の肩に顔を埋めてしがみ付いたら、自分が子どもになってしまったような気がした。そうしたら急に「ふえーん」と声が出て、子どもみたいに泣きだしてしまった。嗚咽を止めようとしても止められなくて、そんな声が出して泣いている自分が、とても不思議だった。