嫌われ者に恋をしました

 お母さんが死んだ時のことを誰かに話したのも、こんな風に泣いたのも初めてだったかもしれない。

 雪菜が泣きやむのを隼人は抱き締めてじっと待っていた。少し落ち着きを取り戻して、雪菜が肩から顔を離すと、隼人は雪菜を抱えたままテーブルに手を伸ばしてティッシュを取ると、「どうぞ」と渡してくれた。

 ティッシュを渡されたものの、音を出して鼻をかむのを恥ずかしがっていたら「あんなことをしたのに、今さら何が恥ずかしいの?」と言われて耳が熱くなるのを感じつつ、思いっきり鼻をかんだ。

「すみません……、泣いたりして」

「いや、ごめん。俺が聞いたから……。でも、お母さんが亡くなったのは雪菜のせいじゃないよ。そんな風に思わないで」

「いいえ……、私が言い合いをしたからなんです……」

「違う」

「違いません……」

 隼人は雪菜を覗き込んだ。

「でも、俺と言い合いしても俺は死ななかっただろ?」

「それはっ……」

 それは、あの最初の食事のことを言っているんだろう。そういえば、あの時は初めての食事なのに言い合いなんてしてしまって、隼人さんのことが無性に心配になって、死んだらどうしようなんて言ってしまった。

「なっ?」

 隼人に明るい声で言われたが、雪菜は納得できなかった。

「そ、それはっ……隼人さんが私を叩いて飛び出していくような人じゃなくて、落ち着いた人だったからです」

「うん、そうだよ」

「?」

 自分の言った言葉を簡単に認められて雪菜は目をぱちくりした。
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