嫌われ者に恋をしました

「雪菜が言い合いをしたことは原因じゃない。飛び出して行ったお母さんがいけないんだよ」

「……」

 雪菜にも隼人の言いたいことはわかった。でも、どうしてもそんな風には思えなかった。

「でも……、私のせいなんです」

「雪菜は自分が原因だと思いたいわけ?」

「……そう思いたいんです……」

「それは……、困ったね」

 隼人に頬を撫でられて、雪菜は隼人の肩に額を押し付けて話を続けた。

「お母さんはいつもすぐ感情的になって、いつも彼氏に夢中で、いつも私のことが嫌いですぐに叩いて……。でも、私さえしっかりしていれば良かったんです。それなのに……、私もお母さんみたいに感情的になったりしたから……」

「……そう、……辛かったんだね、雪菜」

 隼人はそっと雪菜を包み込んだ。

 その言葉を聞いてハッとした。辛かったんだね、なんて。その言葉は雪菜の心を深く複雑にえぐった。

 本当にとても辛かった。辛いなんて一言では理解なんてできない。そんな一言で言わないでほしい。でも、辛かったことを認められたら、なぜか胸がぎゅうっと痛くなって、また涙がにじんできた。

 私、辛かったことを誰かにわかってほしかったんだ……。

「……ん、辛かった」

 言葉にした途端、ぽたぽた涙が落ちてきた。本当は辛かったなんて一言では言い表せない。辛くて寂しくて必死で、自分を守るだけで精一杯だった。

 隼人さんには完全にはわからないかもしれない。それでも、理解を示されたことで気持ちのどこかが救われたような気持ちになった。
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