嫌われ者に恋をしました
そのまま抱いてしまってもおかしくない雰囲気だったが、さすがに自制心が働いて、隼人はこっそり失笑した。
雪菜が自分の話をしてくれたことは嬉しかった。煙草の火を押し付ける男から守らない母親の話を聞いた時点で予想はしていたが、実際に雪菜の話を聞いて、雪菜のことを少しは知ることができたと思った。
でも、雪菜の苦しみは隼人の想像を超えていた。隼人は雪菜がすごく遠くに離れてしまったような、すごく近くに来たような、何だかよくわからない感覚に襲われた。
叩かれても平気な顔をしていたのは瀬川のせいではなく、母親のせいだったとは……。
雪菜は自分が言い合いをしたことが原因で母親が死んだと思い込んでいる。それを聞いて隼人はあの初めての食事を思い出した。
あの時はお互いにヒートアップして変な言い合いをしてしまったが、『課長が死んだらどうしよう』なんて言い出して、本当に理解できなかった。
言い合いをしたくらいで死ぬわけがない。でも、ずっと自分の中に閉じこもって、一人で抱え込んで生きてきた雪菜にとっては、とても怖いことだったんだろう。
思えば、俺はあの時既に雪菜に惹かれていた。そして、あっという間に夢中になって、今はこんなに深く愛してしまった。
本当に必ず守るから、雪菜には自分の殻から出てきてほしい。安心して幸せだと感じてほしい。もっといろんな雪菜を見たい。喜怒哀楽の全て。
雪菜は言い合うことを恐れているが、言い合いだってしたい。言い合いまではしなくても、思ったことを言える関係でありたい。お互いに言いたいことも言えないなんて嫌だ。