嫌われ者に恋をしました

　一緒に過ごすようになって、少しずつ心を許してくれているのか、雪菜は表情が豊かになってきた。とはいえ、隼人は雪菜が何を考えてどう感じているのか、未だにわからないことが多い。

　だから、付き合って日も浅いのに、思い付きで実家に行こうなんて言ってしまって、引かれたんじゃないかと不安になった。後になって思うと、寝たらすぐ家族に紹介する男みたいだ。

　雪菜が帰ると言い出した時は、やっぱり……と思って秘かにかなり落ち込んだが、引かれたわけではなかったから、本当にほっとした。

　隼人が雪菜を実家に連れて行こうと思ったのは、雪菜にありきたりでごく普通な自分の家族を見せてやりたくなったからだ。

　雪菜は子どもの頃、母親に怒られることに怯え、叩かれることに怯え、いつも母親に遠慮して、母親の彼氏に絡まれないよう気配を消して過ごしていたと言っていた。それは普通の家族とは言えないだろう。

　家族にはいろいろな形があるのかもしれないが、無神経で図々しくて何でも言い合う自分の家族を雪菜に見せてやりたかった。雪菜が知っている家族だけが家族の形じゃないことを知ってほしかった。

　ただ、雪菜にも言った通り無神経な連中だから、絶対に面白がって美生との婚約破棄の話題に触れてくるだろう。それだけが心配だった。変なこと言って雪菜を傷つけなければいいが。

　母親は間違いなく、彼女を連れて来ると気がついていた。もしかしたら、昔の写真なんかを引っ張り出して余計な準備を整えている可能性もある。

　そんなことを思ったら、実家に行こうなんて言ったことを隼人は少し後悔した。