嫌われ者に恋をしました
悠人が面白がってわざと秘密だなんて言っているのはわかっていたが、それでもイライラして隼人が目を細めると、母親がポツリと寂しげに言った。
「隼人もこれを期に、時々は顔を出しなさい。アンタがいないとやっぱり寂しいのよ……」
「え……?」
いつも騒々しい母親が急にしんみりしたから隼人は戸惑った。
「そうだよね~」
「だってこの家」
「ツッコミがいないんだもん!」
「ツッコミがいないんだも~ん」
「何だよそれ!」
戸惑って損をした。母親と悠人の恐ろしいほど息の合ったコンビネーション。本当に腹が立つ。
「たまに隼人が来てツッコミを入れるとスカッとするのよ!」
「兄貴は必要だよ、たまには」
「だから、もう少し顔を出しなさい。雪菜さんの運転手としてでいいから!」
隼人はため息をついた。
「わかったよ、運転手でも、オマケでも、何でもいいよ。近いうちにまた来るから」
無神経な人たちに気を遣われると面倒臭くてくすぐったい。今回それがよくわかった。
雪菜は微笑んで様子をみていたが、帰るとなると深く頭を下げて「お邪魔しました」と言った。
「また来てね。待ってるわよ」
「はい」
「俺がいる日に来てね~」
「そうですね、はい」
気がついたらいつの間にか父親も玄関まで見送りに来ていた。特に言葉は発しなかったが、こんなことは初めてだ。親父も雪菜を気に入ったんだろうか。