嫌われ者に恋をしました
みなとみらいのエリアに行くなんて、密かに憧れていたから、憧れのデートが実現して雪菜は嬉しくてたまらなかった。
窓の外には、ドライブの時に初めて見たランドマークが遠くに見えた。夜に見た時とはまた少し違う建物に見える。
「ずっと見えてますね。もうすぐですか?」
「いやいや、まだ先だよ。けっこう遠くからでも見えるからね」
へー、と思いながら雪菜は窓の外を見た。
隼人の家族はとても優しかった。雪菜は他の人の家族に会ったのも初めてだったし、人の家で食事をしたのも初めてだった。
そんなガチガチに緊張している雪菜に、隼人の家族は絶妙な距離感でさりげなく関わってくれた。彼らがかなり雪菜に気を遣っているのを雪菜はずっと感じていた。
隼人は無神経だと言っていたが、そんなことはないと雪菜は思った。確かに、ちょっと冗談はきついけれど、彼らの間にはそういうことも言い合える信頼関係があるんだろう。
それに、雪菜の家族の話を聞いたから、隼人が自分の家族に会わせようと思ったことを雪菜はわかっていた。
雪菜の知っている家族だけが家族の形じゃない、何でも言い合える家族の形もある、だから安心してこっちにおいで、と言われているような気がした。
自分の家族の形が普通でないことはわかっている。自分が持っている家族の概念から抜け出せないでいることも。
でも、雪菜の家族を知り、雪菜の概念を崩そうとする隼人が、地の底にいる自分を助け出そうと手を伸ばしているように思えて、隼人の心が染み込んできて、鼻の奥が痛くなって涙がにじんだ。