嫌われ者に恋をしました

 隼人の家にしばらく泊まるための荷物は、明日会社が終わってから運ぶことになった。

 帰り際、何度もキスをして「やっぱり今日もうちにおいでよ」と言う隼人の言葉に心がぐらついたが「荷物をまとめないといけないから」となんとか断った。

 本当は一緒にいたかった。でも、この休み期間はあまりにも一緒に居すぎたと思う。少し離れて頭を冷やさないと、いっぱいいっぱいで頭がパンクしそう。

「電話する」

 隼人はそう言って帰っていった。

 隼人が帰ってドアを閉めた途端、予想通り寂しくなって後悔し始めたから、雪菜は荷物をまとめることに集中して気を紛らわせた。

 しばらくとはいえ人の家に厄介になるなんて初めて。そういえば、隼人さんは女の子の家に泊まるの初めて、なんて言っていたけど、私も男の人の家に泊まるなんて初めてだった。

 お互いに初めてだったんだ。私が誰かと一緒に住むのが初めてなように、隼人さんも誰かと一緒に住むのは初めてということ……。そう思ったら、その相手に自分を選んでくれたことが嬉しかった。

 とりあえず、何を持って行こう。着る物とか化粧品とか?あれこれと試行錯誤して、バッグには入りきらなそうだったから、結局段ボールに入れることにした。

 一通り荷物をまとめて思った。お母さんの位牌、持って行ってもいいかな。しばらく離れるのに、ここに置いていく気になれない。持って行っても隼人さんは怒ったりする人じゃない。

 位牌だけは段ボールに入れずバッグに入れて持って行くことにした。

 夜になって予告通り隼人から電話がきて、たくさん喋って、一人は寂しいと言われ、雪菜も寂しいと思った。

 電話を切って横になったら、隼人の体温や息遣いを思い出してしまい、思わず枕を抱き締めた。自分一人では音がならないベッドが寂しくて、明日からは一緒にいられるから、と自分を励まして雪菜は浅い眠りについた。
< 299 / 409 >

この作品をシェア

pagetop