嫌われ者に恋をしました
「じゃあ次に監査課長から、次年度の担当について。お願いします」
監査課長の松田隼人(まつだはやと)は表情を変えずに片倉課長をチラッと見ると「はい」とうなずいた。
ダークグレーのスーツに身を包み、髪は整髪料できっちりまとめている。眼鏡の奥の冷静な瞳は鋭く『近づいただけで体が冷える』と女子社員から揶揄されるのもうなずける。
「担当」と聞いて、また室内がざわついていた。去年、監査の補佐は経理課職員が持ち回りでやっていた。おそらく「担当」というのはその件だろう。
みんな監査の補佐は大変だと言ってやりたがらない。でも、雪菜はみんなが言うほど大変だとは思っていなかった。
隼人は静かに口を開いた。
「監査の補佐は、昨年度は持ち回りで担当していたが、今年度は1名を担当とすることになった」
室内のざわめきが大きくなった。あからさまに「マジで?」という声も聞こえる。
「小泉」
え?私……?
雪菜は戸惑ったものの表情は変えずに隼人をまっすぐ見て、冷静に低めの声で答えた。
「はい」