嫌われ者に恋をしました
「具合悪い?」
隼人が小声で心配そうに聞いてきたから、雪菜はパッと顔を上げて首を振った。
「本当に?」
「はい、大丈夫です」
「そう……」
隼人は何かをメモ帳にサラサラと書き、一枚破ると雪菜にそっと渡した。
『今日は車で来てる。交番の信号を右に行った先の駐車場に停めてあるから、終わったら一緒に帰ろう』
パーテーションがあるとはいえ、話し声は経理課に聞こえてしまうかもしれない。だからメモなのかな。
隼人さんと二人だけの秘め事。メモでこっそりやりとりなんて、ドキドキしてちょっと楽しい。……瀬川さんの時みたいな罪悪感もない。
雪菜が微笑んでうなずくと、隼人もほんの少し微笑んだ。
微笑んだら一瞬、冷たい課長から隼人さんになったから、雪菜は思わずじっと見つめてしまった。でも、課長は仕事が優先なわけで。眼鏡をスッと直すと静かに言った。
「日程を調整してみて、行かない営業所がある程度見えたら、一度報告して」
「……わかりました」
もっと見つめていたかったが、隼人にそう言われて、仕方なく雪菜は仕事に着手した。
なんだろう、いつもより仕事がサクサクできる気がして楽しい。
日程の組み合わせも、調整もあっという間に終わって、今回行かない営業所をリストアップして報告すると「もっとゆっくりでもいいよ」と隼人は微笑んだ。