嫌われ者に恋をしました
仕事が終わると先に隼人が会社を出て、後を追うように雪菜も会社を出た。
会社を出たら課長から隼人さんになっているに違いない。そう思って走って行ったのに、駐車場で待っていた隼人は、なぜか課長の雰囲気のまま。
どうしたのかな、と思いつつ促されるまま車に乗り込んだ。静かにシートベルトをすると、隼人は眼鏡の奥の冷たい瞳をスッと雪菜に向けた。
「今日は朝から何を考えてたのかな?」
「えっ?」
やだ……、気がついてたんだ。
「……課長には秘密です」
「そう?なら、夜じっくり聞くまでだよ」
隼人の指がそっと雪菜の頬に触れた。いつもと同じ指のはず。なのに違う気がしてゾクッとした。こんなことをするなんて、確信犯だとわかっているのに、冷たい瞳に心を鷲掴みにされてしまう。
雪菜が赤くなってうつむくと、隼人は微笑んだ。
「じゃあ、行こっか?」
「隼人さん?」
「なに?」
雪菜は嬉しくなってもう一度「隼人さん」と言った。
「課長はお気に召さない?」
「いいえ、課長も隼人さんも大好きです」
雪菜の言葉を聞いて、隼人は満足げに微笑んだ。
隼人の車で一度雪菜の家に寄り、荷物を乗せてから隼人の家に向かった。
家を出る時、雪菜はもうこの家とはお別れのような気がした。もう、この家に住むことはないのかな……。
隼人さんの家に住むのは一時的なことなのにそんな風に思うなんて。私はずっと隼人さんと一緒にいたいと望んでいる。雪菜は改めて隼人への想いを痛感した。
再び車に乗り込んで走り出すと、隼人は少し言いにくそうに「実はね……」と言った。