嫌われ者に恋をしました
雪菜には帰りが遅くなるかもしれないから、先に寝ていいからね、と言って出てきたが、雪菜が寝てしまう前に早く帰りたい。隼人はそんなことばかり考えていた。
出掛けにキスをしたらますます行きたくなくなったが、今さら専務の誘いを断るわけにはいかない。思いを断ち切るように雪菜の頭を撫でて家を出た。
今日、瀬川は雪菜の周辺に姿を見せることはなかった。あれは一時的なお遊びだったのか?でも、警戒するに越したことはないだろう。
とりあえず、雪菜を自分の家に住まわせることができてほっとした。俺の家にくるのは瀬川に先手を打つため、なんて言ったが、本当はもう家に帰すつもりなんてない。
隼人は銀座のビルの一角にある小さな店に入った。落ち着いた雰囲気の薄暗いこの店は専務のお気に入りだ。……店と言うよりママがお気に入り、なのか。
上の人間は、一人で行く店は違うのかもしれないが、部下を連れて行くとなると女性のいる店に連れて行きたがる。
雪菜には、時々女性のいる店に行くこともあると言ったが、本当は女性のいない店に行くことなんてほとんどない。
その話をした時の、膨れてヤキモチを妬いた雪菜はすごくかわいかった。俺は雪菜しか見ていないのに。またこのネタで妬いてもらおう。
「あら、松田さん。いらっしゃい。……藤堂さん、意中の方がおみえになりましたよ」
隼人はママのしっとりとした笑顔に会釈をした。
「専務、遅くなって申し訳ありません」
「もっと遅くても良かったよ、ねえ?」
専務はママと話をしていたらしい。専務に視線を向けられて、ママは「困った人ねえ」と笑った。