嫌われ者に恋をしました
「今回はスケジュールを繰り上げてもらって悪かったね」
藤堂専務はグラスの氷をカランと鳴らした。
「いえ、問題ありません」
「松田君のおかげで監査体制の雛形は整ったからね、落ち着いたら他の人間に担当してもらうよ。いつまでも君に監査をやらせているわけにもいかんだろう」
「あら、松田さん、また異動?大変ねえ」
「まだ決まったわけじゃないんだ。でも、かわいい子には旅をさせよって言うだろう?」
「期待されてるのね」
「身に余るお言葉、痛み入ります」
隣に座った女の子は、見たことのない子だった。新人だろうか。水割りを作って座り直した距離が近すぎたから「ごめんね」と言って、少し離れるような仕草をした。
「松田君は相変わらず女嫌いだね」
「嫌いというわけではありません」
「あら、松田さんは女の子を寄せ付けないってうちの子たちから人気があるのよ」
「努力しなくても人気があるなんていいな!」
「女性の人気なんていりませんよ」
「えっ!?男色?」
新人が興味深げに見つめてきたから、顔をそむけて無視をした。
「違うわよね?松田さん、もしかして好きな子でもできたのかしら?」
「……」
恐ろしい人だ。なんでわかった?さすが、何年も銀座でママをやってるだけのことはある。
「そうなの?松田君」
「……今日はどういったお話でしょうか?」
「いや、その松田君の好きな子って付き合ってるの?」
「え?」
まだこの話題から離れないのか?
「もし松田君がその子を諦めるなら、いい話があるんだよ」
「ご縁談かしら?」
ママは楽しそうに身を乗り出した。
「そうそう。悪い話じゃないと思うよ。重役の娘さんだし」
「あら、出世コースの定番って感じ!松田さんは愛を取るの?出世を取るの?なんてねっ!」
「……」