嫌われ者に恋をしました
部課長会が終わって戻る途中、喫煙室の横を通ったらいきなり声をかけられた。
「松田課長」
振り返らなくても声の主はすぐに分かった。『課長』なんて呼んで、イヤミな奴。
「なんだよ、瀬川」
「ちょっといい?」
「お前と話すことなんてねーよ」
「まあ、そう言うなよ」
喫煙室に手招きされて仕方なく中に入った。煙草を吸わない生活にはだいぶ慣れてきたが、目の前で吸われるとさすがにイライラする。
「松田、雪菜と付き合ってんだろ?」
瀬川は余裕な表情で煙を吐きながら言った。お前はもう「雪菜」なんて馴れ馴れしく呼ぶなよ。
「お前には関係ないだろ」
「ずいぶんと喧嘩腰だねえ?それなら俺もそういうトーンで話すけど」
「くだらない用なら聞かない」
隼人が喫煙室を出ていこうとすると、瀬川はあざ笑うように言った。
「煙草、怖がるだろ?アイツ」
隼人が振り返ると瀬川はニヤッと笑った。
「目の前で煙草吸うと固まっちゃうんだよな、面白いだろ?やったことない?」
「……理由をわかって言ってんのか?」
「もちろん!きったねー傷って言って泣かせるのが楽しかったんだけどね」
思わず目を見開いた。今まで人を殴りたいと思ったことはなかったが、初めて本気で殴りたいと思った。ブチブチと音を立てて理性を引き千切る腕を、雪菜の面影がかろうじて止めてくれているような気がした。