嫌われ者に恋をしました
どうせ遅れると伝えてあるから、今さら急いでも仕方ないだろうと、居酒屋へ行く前に防犯グッズを見に行った。
毎日こんな風に雪菜にくっついて回るわけにはいかない。雪菜には防犯ベルを持ってもらって、今はもう使っていないレコーダーも渡しておこう。
警戒しすぎだろうか。でも、瀬川が俺の知らない所で雪菜に接近して脅す可能性はある。こんなに心配するくらいなら、挑発なんてしなければよかった。今更後悔しても遅いけど。
いい加減、雪菜のことで頭にくると止められなくなる自分を何とかしないといけない。頭にきても、良いことなんて一つもないのに。
防犯ベルを買って店を出ると携帯が鳴った。見ると登録されていない知らない番号。気にはなったが、面倒で無視してしまった。
知らない番号から電話がかかってきたことなど忘れて居酒屋に着くと、木村公一(きむらこういち)と神崎義則(かんざきよしのり)は先に盛り上がっていた。
「悪い、遅れて」
「おーっ!まつだー!遅いよぉ」
「今日は神崎の昇進祝いなんだから、ちゃんと来いよ」
「阿川は?」
「来れないってさ」
「3人で昇進祝いなんて、寂しすぎだろ」
「ギャハハ!いいんだよ。どーせ祝ってくれる彼女もいねーしな」
この二人は同期で、木村は去年人事課係長になり、神崎はこの9月から営業課係長に昇進が決定したばかりだ。
松田が遅れてきたから一度仕切り直そーぜ、と言いながら二人は嬉しそうに追加のビールを店員に頼み、お祝いの乾杯をした。