嫌われ者に恋をしました
「それにしても9月に昇進なんて、キリが悪いな。普通は10月だろ?」
「なんかね、来年営業課を解体して仕切り直すみたいよ。いくつかに分解するんだってさ。その準備みたいなもんかね、俺の昇進は」
「へー」
藤堂専務は今の営業課を嫌っている。過去の権力者の息がかかっていて、未だに古い体質を固持しているからだろう。
「そういえばさ!同期の瀬川、覚えてる?アイツ、9月いっぱいで辞めるんだよ」
「エッ!」
「知ってる!えげつないよな、アイツ」
なんだそれ!知らなかった!
あの野郎、俺に会社辞めろなんて喧嘩売っておいて、自分が辞めるのか?どういうつもりだったんだ?単純に一泡吹かせるのが目的だったのか?
「俺なんかが昇進しちゃったからな。もうやってらんねーって感じだろ、きっと」
「でも瀬川の奥さんってアレだよな?古賀取締役の娘?孫?だっけ?」
「前、取締役な……。瀬川、ガツガツし過ぎなんだよ。出世のために落としたんだろ?アイツ手が早いからな。でも、離婚するらしいよ」
「……なんか、酷いな」
出世できなかったから用済みってことだろうか。子どももいるのに酷い話だ。
「高野藤堂ラインになって古賀さんの発言権、なくなったからね。人事権もなくなっただろ?まあ、瀬川が甘かったんだよ。アイツ他力本願だからな」
「俺が係長に昇進が決まった時の瀬川の顔ったらなかったぜ。喧嘩は売ってくるしさ。もう、やる気なくなったんじゃねーの?退職届も出して、9月は有給休暇消化するからってほとんど来ないんだって」
「次も決まってるらしいじゃん。関西の会社だとか?けっこう優遇されてるらしいから、また役員の娘でもたらし込んだんじゃない?」
「そうか……、知らなかった」
瀬川がいなくなるなら雪菜は安全だ。でも、ギリギリまで気は抜けない。単なる愉快犯にも思えるが、最後の最後でおかしなことをされたらたまらない。しばらくは警戒しておこう。