嫌われ者に恋をしました

 その日、雪菜は思いのほか仕事が早く片付いて残業にはならず、一人で先に帰ることになった。

「お先に失礼します」

 隼人とこっそり目を合わせて、雪菜は職場を後にした。今日は早く帰れたから、ちょっと手の込んだ物でも作ろうかな。

 それにしても、まさか片倉課長と綾香さんが付き合っているとは思わなかった。かなり年の差あるんじゃないのかな。でも、お似合い。

 今まで考えたこともなかったけど、もしかしたら社内恋愛なんて案外多いのかもしれない。そんなにびくびくしなくてもいいのかな。

「小泉さん?」

 ふわふわ考え事をしながら歩いていたら、急に声をかけられた。

「はい?」

「小泉雪菜さん?」

「そう、ですが」

 声をかけてきたのは、とても綺麗な女性だった。大きな瞳で顔立ちのハッキリとした美人。背が高くてスタイルもよくて、モデルさんみたい。

「あの……、何か?」

「少しお時間、いいかしら?」

「え?えっと……」

 誰だろう。こんな綺麗な人、知ってたら絶対に忘れないと思うけど、向こうは私のことを知っている。困る雪菜に綺麗な女性は小首を傾げてにこっと笑った。

「あなた、隼人と付き合ってるんでしょう?」

 まさか、と思って目を大きく開いた。でも、きっとそのまさか。わかっていたけど、あえて聞いてみた。

「どちら様、でしょうか?」

 綺麗な女性のにこっとした笑顔は、含みのある鋭い笑顔に変わった。

「森口美生(もりぐちみお)と申します。昔、隼人と婚約していたの。ご存じよね?」

「詳しくは存じ上げません。……どういったご用件でしょうか?」

「ちょっとね、お話したいことがあるの」

 どうしよう。怖い。嫌な感じ。この人、隼人さんを捨てたくせに、どうして私なんかに話があるんだろう。
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