嫌われ者に恋をしました

 何のことだろう。隼人さんは何か私に隠していることでもあるんだろうか。

「じゃあ、なんで隼人と付き合ってるの?」

「そ、それはっ、……好きだからです」

「……で?」

「で?」

「それだけ?」

「それだけですけど」

 好きだから付き合う以外に何があるっていうんだろう。おかしなことを聞く人。もう帰りたい。

「あなた、何にもわかってないのね、隼人のこと」

「……どういう意味ですか?」

 自分の方が隼人さんのことをわかっている、という口ぶり。それは、確かに元婚約者だからそうかもしれないけど。でも、この人には絶対に負けたくない。絶対に隼人さんを渡さない。こんな闘争心が芽生えたのは初めてかもしれない。

「かわいそうに。あなた、遊ばれてるのに気がついていないのね」

 美生はかわいそうにと言いつつ、小バカにした表情をした。

「遊ばれてなんかいません!」

「遊ばれてるわよ。知らないんでしょ?彼、出世に関しては妥協しないのよ」

「出世?」

 出世のことなんて知らない。出世のことなんて、聞いたことない。

「学閥を知らないなら、彼が東大出身だってことも知らないの?」

「ええっ?」

 知らなかった……。学生時代にどんなバイトをしたとか、友達とどこに行ったとか、そんなことはたくさん聞いたけど、どの大学かなんてたいして興味もなかったし、聞いたこともなかった。

 雪菜が驚いたのを見て、美生は肩をすくめてやれやれという顔をして見せた。

「やーね、驚いた。本当に何も知らないのね。仕方ないから教えてあげる」

 美生は得意げに語りだした。
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