嫌われ者に恋をしました

「ゆーきーなっ、お待たせっ」

「あっ、ミノリちゃん……」

「悪いね、急に誘っちゃって」

「ううん。大丈夫」

 雪菜がふんわり微笑んだ。微笑むことなんてあるのか!こっそり盗み見ていた隼人は驚き、目が離せなくなった。微笑んだ途端、雪菜は柔らかい空気を纏っていた。

 パーテーションから現れたのは総務課の笠井美乃里(かさいみのり)だった。ショートカットで背が高く、さばさばした感じの子だ。友達だったのか。

「ここに来るとマイナス4度だって聞いたけど本当だね。マイナス2度足すマイナス2度で。クールビズだねえ」

 そんなこと、どうせ柴崎が面白がって言ったんだろう。今二人が冷えきっているのは、別の理由だけど。隼人がチラッと見ると、美乃里はイタズラっぽく笑った。

「雪菜を泣かせたら承知しませんよ!」

「えっ?」
「え?」

 隼人と雪菜が二人揃って視線を向けてきたから、美乃里は驚いて身を引いた。

「ん?冗談だったんだけど、真に受けた?」

「やだな、ミノリちゃん。変なこと言うから、びっくりしちゃった」

「あ、そう?じゃ、早く行こ」

 雪菜は「お先に失礼します」と頭を下げて、美乃里と一緒に帰って行った。

 さっきの美乃里の台詞にも驚いたが、雪菜が微笑んだことが、隼人にとっては一番の驚きだった。友達の前ではあんな表情もするのか。柔らかい雰囲気だったし。……瀬川の前でもそうだったんだろうか。

 俺はバカだ。そんなことを考えるなんて。

 瀬川とはもう別れたと彼女は言っていた。別れていたとは知らなかった。もうずいぶん前に別れていたんだろうか。もしかしたら、あの後すぐ別れたのかもしれない。
< 34 / 409 >

この作品をシェア

pagetop