嫌われ者に恋をしました
「ゆーきーなっ、お待たせっ」
「あっ、ミノリちゃん……」
「悪いね、急に誘っちゃって」
「ううん。大丈夫」
雪菜がふんわり微笑んだ。微笑むことなんてあるのか!こっそり盗み見ていた隼人は驚き、目が離せなくなった。微笑んだ途端、雪菜は柔らかい空気を纏っていた。
パーテーションから現れたのは総務課の笠井美乃里(かさいみのり)だった。ショートカットで背が高く、さばさばした感じの子だ。友達だったのか。
「ここに来るとマイナス4度だって聞いたけど本当だね。マイナス2度足すマイナス2度で。クールビズだねえ」
そんなこと、どうせ柴崎が面白がって言ったんだろう。今二人が冷えきっているのは、別の理由だけど。隼人がチラッと見ると、美乃里はイタズラっぽく笑った。
「雪菜を泣かせたら承知しませんよ!」
「えっ?」
「え?」
隼人と雪菜が二人揃って視線を向けてきたから、美乃里は驚いて身を引いた。
「ん?冗談だったんだけど、真に受けた?」
「やだな、ミノリちゃん。変なこと言うから、びっくりしちゃった」
「あ、そう?じゃ、早く行こ」
雪菜は「お先に失礼します」と頭を下げて、美乃里と一緒に帰って行った。
さっきの美乃里の台詞にも驚いたが、雪菜が微笑んだことが、隼人にとっては一番の驚きだった。友達の前ではあんな表情もするのか。柔らかい雰囲気だったし。……瀬川の前でもそうだったんだろうか。
俺はバカだ。そんなことを考えるなんて。
瀬川とはもう別れたと彼女は言っていた。別れていたとは知らなかった。もうずいぶん前に別れていたんだろうか。もしかしたら、あの後すぐ別れたのかもしれない。