嫌われ者に恋をしました

 美生は周りを気にしつつ、奇異なものを見るような目を向けた。

「なんなの?気持ち悪い!とにかく、隼人から離れてちょうだい!……私、もう行くから」

 美生は逃げるように荷物を持つと、店を出て行った。

 またやってしまった……。頑張ってやめていたのに。

 子どもの頃から、雪菜には自分を叩く癖があった。傷ついた時、自分を叩くとスッとする。だからよく隠れて自分を叩いていた。

 人に叩かれると痛いのに、自分で思いっきり叩いても不思議とそれほど痛くない。手加減なんかしないで、力いっぱい叩くのに。

 一度叩くと何度も叩きたくなる。それは中毒のような甘美な感覚で簡単にはやめられない。

 でも、大学生になってから、叩くのを我慢することができることに気がついた。無性に叩きたくなっても、頑張って我慢してその場をなんとかしのぐと叩かないで済む。

 自分を叩くなんて、やっぱりおかしいもの。そう思って、雪菜は頑張って叩くのをやめた。大学を卒業する頃には、頑張らなくても叩かなくて済むようになっていた。

 瀬川と付き合っている時も辛かったが、それでも雪菜は自分を叩かなかった。

 それなのに……。

 ひどい。隼人さんは本当にひどい。私のことを愛してるなんて言って、あんなに持ち上げてから、こんな奈落に突き落とすなんて。本当に心から信じていたのに。

 辛くて悲しくて、両手で顔を覆ってシクシクと泣いた。周りから相当注目を浴びていると感じていたが、そんなことは全然気にならなかった。
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