嫌われ者に恋をしました

 家に帰ると真っ暗で、先に帰ったはずの雪菜がいなかった。あんなに早く帰ったのに。

 なんだろう……。胸騒ぎがする。急いで電話をかけたが、何度鳴らしても出ない。

 おかしい!まさか、瀬川が?あんなに気をつけていたのに。

 どこへ行ったんだろう。まず考えられるのは雪菜の家か……。隼人はとりあえず雪菜の家に向かった。

 瀬川に何かされたのか?家で泣いていたりしているのか?

 早く雪菜を抱き締めたい。はやる気持ちを抑えて雪菜のアパートに着いた時、雪菜の部屋を見上げて目を見張った。

「瀬川!」

 瀬川は雪菜の部屋の前で扉を蹴っていた。

「……なんだ、お前か」

「何やってんだよ!雪菜は中にいるのか?」

 瀬川は2階から下に降りてきて、隼人の前に立つとニヤッと笑った。

「お前がここに来たってことは、雪菜はお前の所には帰らなかったんだな」

 ……雪菜はここにはいないのか?

「雪菜に何したんだよ!」

「別に。俺は何もしてないよ」

「じゃあ、どういうことだよ。お前、何を知ってるんだ」

 瀬川は隼人の質問には答えずニヤリとした。

「……先に雪菜を見つけた方が勝ちね?俺が先に見つけたら、雪菜を孕ませてやろうかな。優しいお前はそれでも雪菜を引き取るんだろ?」

 隼人はカッとして瀬川の胸ぐらを掴んだ。

「ふざけるな!雪菜には手を出すなよ!直接俺をやればいいだろ!」

「バカだな、お前。雪菜を痛めつけた方がお前のダメージになるからわざとやってるんだよ」

 そんなことはわかりきっている。

「辞めるなら、もう俺たちには構うなよ」

 瀬川は隼人の手を振り払うと、襟を直した。

「健闘を祈るよ、松田君」

 そう言って瀬川はクルッと背を向けると立ち去っていった。
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