嫌われ者に恋をしました
『やっぱり、課長も知らないんだ……。あんな雪菜、私も初めてですよ。自分の頬を平手で思いっきり叩くんです。それもかなりの勢いで。ほっぺが赤くなって、もうかわいそうで見てられないんですよ。やめてって言うと、いったんやめてくれるんだけど、目を離すとまたすぐに叩くんです』
「……そんなこと」
いったい何があったんだ……。やめてくれ。そんな、自分を叩くなんて信じられない。俺のかわいい雪菜。俺の大事なかわいい雪菜に何があったっていうんだ。
「今すぐ迎えに行く」
『あのね、課長。今、何時だと思ってるんですか?迷惑です。雪菜も眠ったばかりだし』
「……」
確かに、もう夜中の1時だ。
『課長、本当に雪菜を傷つけるようなこと、してないですか?』
「当たり前だろ」
『二股かけてるとか?』
「んなわけねーよ」
『うーん。じゃあ、誰が雪菜を傷つけたんですかね?私、許せないッスよ』
「俺だって許せないよ」
でも、なんとなく気がついた。……美生かもしれない。そんなことをするのは美生以外には考えられない。アイツ雪菜に何をしたんだ!絶対に許せない。
『来るなら明日の朝、来てくれませんか。課長が迎えに来ることを伝えちゃうとたぶん逃げると思うから、雪菜には言いませんよ』
「……わかった」
『そしたら……、明日の朝8時はどうですか?鍵、開けておくんで勝手に入って来ちゃっていいですから』
「いいの?」
『叩くのをやめさせるために押さえておくのが大変なんですよ。明日の朝もそんな状態だったら、手が離せないですから』
「そんなに大変なんだ……?」
『はい』
「……」
『じゃあ、うちの住所言いますから』
隼人は美乃里の住所を聞き、もう一度礼を言って電話を切った。
雪菜……。いったい何をされたんだ。優しくておとなしい雪菜が荒れて自分を叩くなんて、想像ができない。そんなに深く傷つけられたのか?考えただけで苦しくなって胸が痛くなる。