嫌われ者に恋をしました
隼人は雪菜の手を離して、勢いよく強く抱き締めた。
俺が陰で美生にそんなことを言ったと聞いて傷ついたのか。俺がそんなことを言うわけがないのに。……雪菜、どれほど深く傷ついただろう。
「雪菜っ、雪菜!聞いて!聞いてくれっ!俺は絶対にそんなことは言わない。
美生は瀬川から雪菜のことを聞いたんだよ。あの二人も販売促進課で一緒に働いてたことがあるんだ。美生は、瀬川から聞いた話を俺から聞いたように言ったんじゃないのか?
美生は俺とよりを戻したがっていた。瀬川は雪菜に手を出して俺を傷つけたがっていた。だからあの二人は手を組んだんだ。
美生が雪菜を俺から引き離して、離れた雪菜を瀬川が狙ったんだよ。雪菜の家で瀬川に会ったんだ。瀬川は雪菜を狙っていた。
……何にしても俺のせいでまた雪菜を傷つけてしまった。本当に悪かった。本当にごめん」
一気に言い切った言葉が、激しく泣いている雪菜に伝わったかどうかはわからなかった。
「雪菜?聞いてた?もう一度言う?」
泣きながら雪菜は首を振った。少しは話を理解しただろうか。
雪菜は恐る恐る隼人を見つめた。
……やっと目を合わせてくれた!嬉しくて胸が痛い。
涙に滲んだ黒い瞳をじっと見つめると、隼人は勢いよく雪菜にキスをした。唇を重ねるだけのキスをして唇を離すと、雪菜の頬を両手で挟んだ。
「目が覚めた?」
「?」
「悪い魔女に魔法をかけられたお姫様は王子様のキスで目が覚めるんだよ」
「……」
雪菜を守れなかったくせに。王子になんかなれないくせに、傷ついた雪菜を前にして、そんなことを言っておどけるくらいしかできない自分を心の中で失笑した。
そんな隼人を見て、雪菜は何も言わずにまたぽろぽろと涙を流した。