嫌われ者に恋をしました
電話を切った途端、その子はしゃがみこんで声を殺して泣き始めた。さっき、やたらと顔を触っていると思ったら、あの時から泣いていたのか。話していた時の声の感じでは、全然わからなかった。
瀬川に泣いていることを悟られないように、声に感情が出ないように気丈にふるまっていたのか。
そう思ったら、隼人は胸が痛くなった。声を殺しても漏れる嗚咽が胸に刺さって、その場にいられなくて、煙草の火を乱暴に灰皿に押しつけて室内に戻った。
あの時から、あの光景がずっと忘れられなかった。
その後すぐ、4月に雪菜は経理課に配属されてきた。隼人はその時から監査課長になったから雪菜は直接の部下ではなかったが、一度一緒に監査に行った時は、あの時のことを思い出さずにはいられなかった。
いつも表情のない雪菜。でもあの時はしゃがみこんで泣いていた。あの光景は、喉に刺さった小骨のように、隼人の心にずっと刺さっていた。
瀬川との関係で、雪菜が傷ついていたことは知っていた。それなのに、昨日はどうしてあんなにひどい言い方をしてしまったんだろう。隼人は後悔して奥歯を強く噛んだ。