嫌われ者に恋をしました

 ぎゅーってしてほしい、なんて甘えたことを言ってしまった。そんな甘えたことを言えてしまったことに驚いた。

 でも、こうやって抱き締められているのは、すごく心地いい。

「雪菜に言っておきたいことがあるんだ」

「……なんですか?」

 そんな、改まって言っておきたい、なんてちょっと不安になる。なんだろう。

「瀬川がいなくなっても、このままうちにいてほしいんだ。……うちに越しておいでよ」

「え?」

 そんな、嬉しいこと……。良かった、私も帰りたくなかった。もう、離れて過ごすなんて耐えられない。

「隼人さんがいいのなら、私は喜んで」

「本当?良かった」

「でも、会社にバレてしまいませんか?」

「それはね、いいんだ」

「?」

 バレてもいい?バレたら異動になって一緒に働けなくなるのでは?

「じゃあ、言っておきたいことの二つ目。俺の異動はほぼ確定してるんだ」

「エッ?異動、なんですか?来年ですか?」

「うん、たぶんね」

「……どこにですか?」

「それはまだわからない」

「そうですか……」

 隼人さん、別の部署に行っちゃうんだ。一緒に仕事ができなくなっちゃうんだ。そんなの寂しい。隼人さんは私だけの課長だったのに。

 つまり、別の人が監査課長として来て、私はその人の下で働くってこと?わがまま言っちゃいけないけど、……ちょっと嫌かも。

 『監査課長』は隼人さんがこれ以上なく完成させてしまった……。これからどんなにデキる人が来ても、ダメ課長に見えてしまいそう。
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