嫌われ者に恋をしました

「……なに、それ?隼人、変わった?あなた、そんなことする人じゃなかったじゃない」

「ああ、俺は変わったんだ。もう、お前の知ってる俺はいない。お前を好きだった頃の俺もいない。お前とよりを戻すなんてありえない。だから、もう二度と来るな」

「でもっ」

「お前は俺の肩書が好きなんだろ?将来出世すると思って狙ってるんだろ?でも、俺は変わったんだ。もう出世には興味ない。俺はこの人がいればそれだけいい」

 隼人は雪菜の髪に顔を埋めた。

「……どうしちゃったの?そんな、くだらない嘘つかないで!この子、あなたの経歴もわかってないバカな子なのよ?」

 美生の声は心なしか震えているように聞こえた。

「お前にとって大事なのは経歴だよな。でも、この人はそんなこととは関係なく俺を見てくれている。付け加えると、雪菜はバカじゃない」

 また、コツコツッとヒールの音が響いた。見えないけど、驚いてよろけている?

「毒されたの?ばかばかしい!……私、帰る」

「もう来るな」

「頼まれても来ないわよ」

 ヒールの音が少し変わって、カツカツと威勢のいい響きになって遠ざかって行った。

「あの……」

「ごめん、苦しかった?」

 隼人は雪菜を離した。雪菜は不安な表情で隼人を見上げた。

「いえ、私のせいで出世に興味がなくなったなんて……」

「うん、嘘だよ」

「え……!」

 あんな真剣に言っていたから本気にしてしまった。……私っていちいち信じて本当にバカ。

「信じたの?本当に信じやすいんだな。でも、雪菜がいればそれだけでいいっていうのは本当だからね」

 隼人は雪菜を見つめて苦笑した。
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