嫌われ者に恋をしました

「あ、そうだ！」

　普通にでかい声で独り言を言ってしまい、隼人は恥ずかしくなってパーテーションがあったことに感謝した。

　時間を見ると５時半。柴崎、まだいるかな。隼人は内線電話を手に取った。

「柴崎課長、いる？」

『少々お待ちください』

　良かった。まだ帰ってなかった。

『おう、松田君？何？』

「この次の監査の件ですが、できれば同行するのを笠井さんにお願いできませんか？」

『うーん、たぶんいいと思うけど。一応予定を確認してみるよ。なに？松田君……、ああいうのがタイプなわけ？』

「違いますよ。柴崎さん、うちの小泉が愛想ないって言ってたでしょう？小泉と笠井さんは知り合いみたいだから、少しはうちとけるんじゃないかと思いまして」

『ふーん、なるほどね。まあ、いいけど。あんたも大変ね、若い子に気い使って』

「それは、お互いさまですよ」

『そーなんだよね、うちも大変よ』

「じゃあすみませんが、調整の方、よろしくお願いします」

『おう！わかったー』

　電話を切って、確かに気の使い過ぎかもしれないと隼人は思った。でも、雪菜の瞳が無表情に戻ってしまったのは、自分のせいだという後ろめたい気持ちが隼人にはあった。このくらいまあいいだろう。