嫌われ者に恋をしました
隼人は「戻ろう」と言ってエレベータに乗ると、雪菜の手を握った。
「……さっきは止めてくれてありがとう」
雪菜は隼人を見上げた。
「いえ。でも……ちょっと驚きました」
「ごめん。雪菜のことで頭にくると、自分でも止められなくなるんだ。……嫌になった?」
「いえ、そんな。嫌になったりしません」
喧嘩っ早い隼人は何度か見ていたから、それについては怖くなかった。
それよりも本当は、隼人のそういう側面を自分が引き出してしまっているような気がして、それが怖かった。
暴力をふるう親に育てられたから、自分の中にもそういう暴力的な資質が備わっているのかもしれない。
自分を叩いたりするような、暴力的な私がそばにいるから、いけないのかもしれない。
「私のせい、かもしれません……」
「雪菜のせい?違うよ!自分のせい。いい年こいて、もう少し落ち着かないといけないな」
「……私がそばにいるから、私が暴力的だからそれが隼人さんに影響してしまっているのかもしれない」
雪菜が泣きそうな声を出したから、隼人は手を強く握りしめた。
「雪菜が暴力的なら人間はみんな暴力的だよ」
「でも……」
「雪菜は暴力的な子じゃない。優しい子だよ。雪菜より美生の方がよっぽど暴力的なんじゃない?あいつは雪菜を平気で傷つけた。でも、雪菜は人を傷つけたくないんだろ?だから、俺を止めたんだろ?自分を暴力的だなんて思わないでほしいな」
「……はい」
なんとかそう答えて雪菜は唇を噛みしめた。