嫌われ者に恋をしました

 雪菜はひどく泣いてしまったが、ひとしきり泣いたら吹っ切れたように顔をあげた。

「……これ、もらってもいいですか?」

「もちろん。あたしが持ってたってしょうがないんだから」

「ありがとうございます」

 雪菜は深々と頭を下げ、缶を大事そうに抱えた。

「あんたの父親のこと、わからなくて悪かったねえ」

「いえ、とんでもありません。こちらこそ、お忙しい時間にお邪魔してすみませんでした」

「そんなのいいんだよ。なんなら少し飲んでいくかい?」

「いや、申し訳ないんですが、もう行かないといけないんで」

 隼人は急いで口を挟んだ。もう行かないと、バスの時間に間に合わない。

「そう、残念。じゃあ、またおいで」

「本当にありがとうございました」

 雪菜は後ろ髪を引かれるようだったが、お礼を言って店を出た。

「お母さんの遺品に会えて良かったね」

 隼人が微笑むと、雪菜は少し複雑な表情でうなずいた。

「とりあえず、行こう。もう時間がない」

「え?あっ、たいへん」

 雪菜も時間に気がついて、二人で急いで仙台駅に向かった。

 なんとかぎりぎり間に合って、息を切らせながら旅館の送迎バスに乗り込んだ。動き出したバスのシートに背中を預けて横を見ると、雪菜もこっちを見ていた。

「ぎりぎりだったね」

「間に合って良かったです」

 雪菜は膝の上に缶を抱えたまま窓の外を見ると、もう一度こちらを見た。
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